中性脂肪の数値を解説! 数値の意味を知ることが対策の第一歩

中性脂肪の数値を解説! 数値の意味を知ることが対策の第一歩

監修者
プロフィール

栗原毅先生(くりはら・たけし)
栗原クリニック東京・日本橋院長
1978年北里大学医学部卒業。医学博士。肝臓専門医。東京女子医科大学教授、慶應義塾大学教授を歴任し、2008年に消化器病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防と治療を目的とした「栗原クリニック東京・日本橋」を開院。著書に『名医が教える「本当に正しい糖尿病の治し方」』(エクスナレッジ)、『図解ですぐわかる 自力でラクラク下がる! 血糖値』(河出書房新社)、『ズボラでも中性脂肪・コレステロールは下げられる!』(宝島社)、『血液サラサラで美人になる!』(マガジンハウス)など多数。

年に一度、必ず健康診断を受けていても、その結果をしっかりチェックしていますか? 中性脂肪が高めという結果には、ちゃんと意味があります。「脂質異常症」など、中性脂肪の数値が関係する病気は多くあります。数値の意味を正しく知り、病気の早期発見・進行予防につなげるポイントを解説します。

1.中性脂肪の数値の意味と基準値とは?

健康診断の結果で気になる数値「中性脂肪(トリグリセライド)」とは、血液の中に溶け込んだ脂肪のことを指します。体を動かしたり体温を保ったりするエネルギー源として使われ、生命維持に必要不可欠なものですが、増え過ぎると体脂肪となって内臓や皮下に蓄積されて肥満になります。それだけでなく、血液がドロドロした状態になってスムーズに流れにくくなり、血液や血管の病気を引き起こしてしまう原因となるのです。

中性脂肪の量は血液検査で調べることができます。その単位は「mg/dL(ミリグラム・パー・デシリットル)」で表されます。例えば、健康診断の結果では、「50mg/dL」のように表されているはずです。この数字は、1dL(デシリットル)の血液中に、50mgの中性脂肪が含まれていることを意味しています。

中性脂肪の基準値(正常値)は、空腹時30~149mg/dLです。空腹時中性脂肪の値が150mg/dL以上、または非空腹時(随時)中性脂肪の値が175mg/dL以上の場合、「高トリグリセライド血症」と診断されます。検査結果では「TG」と略されることもあります。

ちなみに、「非空腹時(随時)中性脂肪値」とは、「食後の中性脂肪値」の基準です。空腹時の中性脂肪の値が低くても、食後の中性脂肪値が高い場合、動脈硬化のリスクが高まることが分かってきたため、2022年から診断項目に加えられました。

2.中性脂肪の数値が関係する「脂質異常症」とは

メタボリックシンドロームの判断基準の1つに、「脂質異常症」があります。脂質異常症とは、血液中の脂質が増え過ぎた状態のこと。

血液中の脂質は「血中脂質」と呼ばれ、代表的なものに「中性脂肪」「コレステロール」「リン脂質」「脂肪酸」の4種類があります。この中で、特に健康への影響が大きく、脂質異常症にかかわるのが、中性脂肪とコレステロール(LDLコレステロール・HDLコレステロール)です。

先ほど述べた通り、中性脂肪が診断基準値より高い状態を「高トリグリセライド血症」といいます。これに対して、LDL(悪玉)コレステロールが診断基準値より高い状態を「高LDLコレステロール血症」、HDL(善玉)コレステロールが診断基準値より低い場合を「低HDLコレステロール血症」と呼び、これら3つをまとめて「脂質異常症」と呼んでいます。

脂質異常症の3つのタイプ

➀高トリグリセライド血症…血液内に中性脂肪が多過ぎる状態。基準値を超える150mg/dL以上の中性脂肪が血中に流れると、血液はベトベト、ヌルヌルの状態に。
➁高LDLコレステロール血症…肝臓から血液中に運ばれるLDLコレステロールが多過ぎる状態。
➂低HDLコレステロール血症…血液中から肝臓に運ばれるHDLコレステロールが少な過ぎる状態。

3.中性脂肪の数値が高いと、コレステロールのバランスに悪影響

「中性脂肪」も「コレステロール」も、何となく体に悪いものと思いがちですが、決してそうではありません。血中脂質の1つであるコレステロールは、細胞膜をつくる材料や神経の働きを支えるなど、私たちの健康に欠かせない重要な役割を担っています。他にも、体の機能調整に深いかかわりのあるホルモンや、食物の消化吸収に必要な胆汁の主成分である「胆汁酸」の材料としても、コレステロールが利用されています。
このように、コレステロールは生命維持に不可欠な脂質で、コレステロール自体が悪いわけではありません。コレステロールについて、もう少し詳しく解説しておきましょう。

コレステロールは肝臓で合成され、血液に乗って各臓器に運ばれます。使われなかったコレステロールは再び肝臓に戻り、新しいコレステロールをつくる材料になります。コレステロールにはLDLコレステロール、HDLコレステロールの2種類があります。

LDLコレステロール

肝臓から血液中に運ばれるコレステロールのこと。酸化しやすく、コレステロールを全身の細胞に運ぶことから、動脈硬化の原因になりやすいとして、「悪玉コレステロール」と呼ばれることもあります。LDLコレステロールは多過ぎることが問題で、140mg/dL以上だと「高LDLコレステロール血症」と診断されます。

HDLコレステロール

HDLコレステロールは余ったコレステロールを回収して肝臓に戻す役割があります。そのため、「善玉コレステロール」とも呼ばれます。量が少な過ぎることが問題になり、40mg/dL未満だと「低HDLコレステロール血症」と診断されます。

問題はLDLコレステロールとHDLコレステロールのバランスの崩れです。この2つのバランスを崩してしまう主要因が、血管内に増え過ぎた中性脂肪なのです。

中性脂肪はHDLを減らして超悪玉LDLを生み、動脈硬化を起こしやすくする

コレステロールはHDLとLDLのバランスが大事であり、「どちらもほどよく高め」が理想です。HDLとLDLのバランスを「LH比」といい、血液検査の数値から算出でき、LH比から、動脈硬化のリスクが分かります。

求め方は簡単です。LDLの数値をHDLの数値で割ると、LH比が算出できます。LH比が1.5までは正常。2.0以上になると動脈硬化のリスクが増え、2.5以上なら、既に血栓ができている可能性があります。
HDLとLDLのバランスの崩れには、中性脂肪が大きく関係しています。そのメカニズムを説明しましょう。

血液の中にたっぷりたまった中性脂肪は、HDLコレステロールを減らし、LDLコレステロールを小型化します。この小型化したLDLは「超悪玉コレステロール」と呼ばれるほど、非常に厄介なものなのです。

小型LDLコレステロールは酸化しやすく、サイズが非常に小さいため、傷ついた血管の壁に入り込みやすい特性があり、動脈硬化を引き起こすリスクを高めてしまいます。いわば、中性脂肪は動脈硬化の「黒幕」と言ってもよいでしょう。

4.中性脂肪の数値の意味を知って改善し、「動脈硬化」を防ごう

せっかく健康診断を受けても、中性脂肪の数値が高いまま放っておくと、このように動脈硬化を引き起こす可能性が高まります。

動脈硬化は、動脈の血管の壁がしなやかさを失い、硬くなった状態です。本来、血管は柔らかく、伸び縮みします。この柔軟性があるからこそ、血液はスムーズに流れ、酸素や栄養を体の隅々まで運搬することができるのです。

年齢と共に血管は硬くなっていきます。硬くもろくなった血管は傷つきやすく、傷ついた部分にコレステロールがたまって、血管の内腔が狭くなります。やがて血栓ができて血管が詰まるなど、大きな影響を及ぼします。血液中に中性脂肪がたくさんあると、動脈硬化はさらに進み、血液はますます流れにくくなります。

動脈硬化は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれています。その名の通り、軽度のうちは、自覚症状はほとんどありません。しかし、血流が悪い期間が長くなり、何も対処しないとやがて血管が詰まり、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、脳出血といった、生命にかかわる重篤な病気を引き起こします。自覚症状がないからこそ、検診の結果は必ず確認し、改善していくことが大切です。

まとめ

動脈硬化は自覚症状のないまま進行していきます。動脈硬化を進行させないためには、中性脂肪の量を減らすことが大切です。数値の意味を知ることが、対策の第一歩になりますから、自分の体の状態を今一度、数値で確認することから始めてみましょう。